概要
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ICP Japanでは、開発者やエンジニア向けに、Meetup/交流や勉強会等をテーマ共催しています。今回のテーマは『ICP × Ethereumの可能性 〜EVM互換マルチチェーンやクロスチェーン開発ベースのプロジェクトを語る〜』として、10/11(金)に実施いたしました。
ブロックチェーン技術の進化に伴い、異なるチェーン間の相互運用性やクロスチェーン開発がますます重要視されています。本イベントでは、Ethereum Virtual Machine(EVM)をターゲットにDAO(分散型自律組織)のフレームワークを開発している専門家(落合 渉悟 氏/Sg氏)が、Internet Computer Protocol(ICP)とEthereumの組み合わせによる新たな可能性を探求する内容を中心に見ていきます。
特に、EVM互換のマルチチェーン環境であるBitfinity EVM(on ICP)の実装やDAOフレームワークの新提案、グローバルステート管理の重要性など、技術的な側面から社会哲学的側面まで議論がされました。
本編動画アーカイブ
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以下、本編のレポート
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<ライブの様子:視聴者からもハイエンドなコメントがあり盛り上がる>
冒頭、ICP Japanからは組織の設立背景やDfinity財団との協力関係、国内外での活動コンセプト等が語られました。
( パートナーシップ等 とともに、普及と企画の推進等)
その後、今回の開催テーマのコンセプトと、メンバーの紹介がされました。
内容(本題)
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◾️ EVMとICPの技術的融合
〜分散型クラウドとEVMの融合〜
<いくつかのポイント>
EVMとICPの技術的融合:Bitfinity EVMは、ICP上のサブネットで動作するEVM実装である。WASM上でEVMを実装することで、ICPの分散型クラウドの特性を活かしつつ、EVM互換の環境を提供している。WASMは、高いパフォーマンスとセキュリティを備えたバイナリ形式であり、多様なプラットフォームでの実行が可能。これにより、既存のEthereum開発者がICPの機能を活用しやすくなり、クロスチェーン開発の可能性が広がっている。
DAOフレームワークの活用:現在のDAOフレームワークの課題として、柔軟性の不足やセキュリティ、分散性の問題が挙げられた。これらを解決するため、新たな汎用的DAOフレームワークのプロトタイプが提案された。このフレームワークは、提案と議決のプロセスを効率化し、AIによる提案の推論結果を活用する機能を持つ。さらに、EVM環境での容易なデプロイを可能にし、グローバルステートの管理と統一を実現することを目指している。
クロスチェーン開発とグローバルステート:グローバルステート管理の重要性が強調された。複数のチェーン間でトークンの発行上限やCDP(担保デポジットポジション)の状態を一貫して管理することの必要性が議論された。技術的には、チェーン間でのトークンとCDPのアトミックな移動や、トランザクションの一貫性を確保するための実装方法が提案された。
セキュリティと課題:ICPのセキュリティ面での課題として、サブネットの分散性とノード数の問題が指摘された。特定のサブネットの過半数のノードを制御されるリスクが存在することが議論された。対策として、SEV-SNP技術の導入が検討されており、これによりノード運営者が状態を見ることができないようにし、セキュリティを強化する方針が示された。また、ICPではチェーンキー(Chain-Key)の複雑な暗号化とMPC技術によって、分散された鍵の断片のみが存在しているため、それらをすべて集めて利用するのは現実的ではなく、攻撃の成功確率が極めて低いとされている。このため、「サブネットが乗っ取られても大して何もできない」というような議論もあった。(2/3のノードが攻撃者に乗っ取られたとしても、MPCによって分割された秘密鍵の全体を統合して利用することは現実的には不可能)
ディスカッションと今後の展望:クロスチェーン環境におけるガバナンスの課題が議論された。ICPがガバナンスのインフラとしての役割を果たす可能性や、各チェーンのガバナンスとの連携方法が検討された。また、流動性の統合と分散化の利点、スナップショットやオフチェーンガバナンスのリスク、ICPの役割と安全性について活発な意見交換が行われた。
なお、イベントの全体を通して、以下の点も重要であると示唆があった。
ICPのスマートコントラクトが、他のチェーンやWeb2に直接署名できることの重要性(MPC(Multi-Party Computation)技術を応用したChain Key Technologyによって)。
MPC署名の活用:ICPのスマートコントラクト(キャニスター)は秘密鍵を持たずに署名でき、MPC技術によってセキュリティが強化される。
クロスチェーン取引:スマートコントラクトが他のチェーンに直接署名することで、アトミックなトランザクションやグローバルステートの一貫性を管理できる(理論的には)。
Web2との連携:キャニスターはHTTPリクエストを直接発行し、Web2サービスとシームレスに連携します。これによりオラクルを不要とし、コスト削減や効率化が実現される。
開発効率の向上:マルチチェーンでのコード・デプロイやマルチシグの設定が簡素化され、開発および運用が効率化される。
セキュリティ強化:秘密鍵の管理が不要になり、悪意あるノードからのリスクが軽減される。
なお、当日の動画アーカイブは以下になります。
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00:00 イベントの目的と概要の説明
01:07 ICP Japanの活動紹介 - ICPの技術と日本での取り組みの紹介
03:17 イーサリアムEVMとICPのクロスチェーン開発 - 相互運用性に関する技術的解説
05:30 パネリストの自己紹介 - 各パネリストのバックグラウンド紹介
06:35 ロールアップ技術とDAO研究 - 分散型自律組織の技術とその最新研究
07:41 DAOの課題とフレームワーク - DAOの構築における現在の課題と解決策
09:59 クロスチェーンメッセージング - 複数ブロックチェーン間の通信技術とその課題
12:08 DAOのプロトタイプ紹介 - 分散型組織の新しい実証プロジェクトの紹介
15:28 パネリストコメント - 各パネリストからの技術やトピックに関するコメント
22:00 グローバルステートの詳細 - ICPにおけるグローバルステートの技術的解説
26:12 ICPのスマートコントラクトとそのガバナンス構造
28:47 クロスチェーン技術事例 - 実際に活用されているクロスチェーンの具体例
32:30 データ所有権とプライバシー - Web3におけるデータ管理とプライバシー保護の議論
35:54 トークンエコノミー - トークンの経済システムとその現在の問題点
39:15 Web3.0と次世代インターネット - 分散型インターネットの将来性と社会的影響
42:05 質疑応答セッション - 参加者からの質問とそれに対する回答
45:30 分散型アイデンティティ - デジタルIDとその管理における分散化の重要性
48:12 ネットワークセキュリティ - ICPにおけるセキュリティ対策とベストプラクティス
51:40 ICPガバナンスモデルの進化 - ICPネットワークのガバナンス構造と進化の歴史
55:22 DAOの将来像 - DAOの今後の発展と実用可能なユースケース
58:19 技術的Q&A - 視聴者からの技術に関する質問に対する詳細な回答
1:02:35 分散型システムのスケーラビリティ - ブロックチェーンの拡張性に関する技術的課題
1:06:50 Web3.0とDAOの未来展望 - Web3.0と分散型組織の未来についての議論
1:12:30 ICPとスマートコントラクトの役割 - ICPにおけるスマートコントラクトの位置づけとその意義
1:16:10 新プロトコルと技術の見解 - パネリストによる新しいプロトコルに関する意見交換
1:19:28 開発者コミュニティとエコシステム - 開発者支援とICPコミュニティの成長
1:23:00 クロスチェーン技術に関する質疑 - 視聴者からの実践的なクロスチェーン技術についての質問
1:26:42 セキュリティに関する視聴者質問 - ICPセキュリティに関する具体的な質問と回答
1:34:08 イーサリアムとの比較 - イーサリアムとICPの技術的比較と優位性の説明
1:37:50 次世代ブロックチェーンの発展 - 新しいブロックチェーン技術の進展と今後の期待
1:41:30 ICPユースケースの実例 - ICPが実際に使われているユースケースの紹介
1:45:20 パネリストによるビジョン共有 - 各パネリストが考える技術の未来展望とビジョン
1:48:10 Web3.0技術の導入におけるハードルと可能性
1:51:25 世界市場(グローバル)におけるブロックチェーンの役割と影響
1:54:05 実用性に関する視聴者質問
1:58:00 プロジェクトの今後の展望
2:02:30 スマートコントラクトの進化 - スマートコントラクト技術の進化とその応用
2:05:55 DAOガバナンスの改善 - 現在のDAOガバナンスの課題と新しいアプローチの提案
2:08:40 クロスチェーン通信に関する視聴者質問
2:12:15 全体のディスカッション内容の総括
2:15:50 今後の展望 - イベント全体の振り返りと今後の予定
結論
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本イベントを通じて、ICPとEthereum(EVM)の融合(統合)が、次世代のクロスチェーン開発に大きな可能性をもたらすことが示唆となりました。Bitfinity EVM(on ICP)の実装やDAOフレームワークの新提案、グローバルステート管理の重要性など、技術的な側面から議論が深められました。同時に、セキュリティやガバナンスのポテンシャルリスクについても検討され、これらの強化策や実質的なリスクがどうなのか、といった内容が議論されました。
今後の展望として、ICPの特性を活かしたクロスチェーン開発の促進、より安全で効率的なDAOフレームワークの実現、そしてグローバルステート管理の標準化などが期待される。また、セキュリティ強化技術の実装や、クロスチェーンガバナンスの確立に向けた継続的な研究開発が重要となるでしょう。
このイベントは、開発者コミュニティにとって貴重な知見を提供するものとなったと考えています。今後も同様の議論や情報交換の場を設けることで、技術の発展と普及が加速することに貢献します。
今後について
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今回は技術イノベーターたちによるセッションとなり、相互に高度なシェアの中で、ライブ中にも互いに示唆となる内容がリアルタイムで議論され、同時に視聴者(web3を取り入れる開発者)にとっても良い機会となりました。今後もこのような場を設け、ICP(Internet Compter)がより汎用的な課題やトピックスに、どうクリティカルに絡むのか、活用できるのかを、皆さんと模索し、究極はユースケースの創出やエコシステム全体の活性化へと繋げていきます。よろしくお願いいたします。
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