概要
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本レポートは、ICP Japanが主催&電通総研が共催したWeb3エンタープライズ勉強会&Meetupのレポートです。デジタル認証IDとVerifiable Credentials(VCs)をテーマに、グローバルな動向と日本での進捗、そしてInternet Computer Protocol(ICP)の可能性について議論が展開されました。
第一部では、VCsとデジタルアイデンティティ認証の可能性が探られ、EUのデジタルIDウォレット法案や日本のマイナンバーカードとの互換性など、具体的な事例が詳細に紹介されました。ICPがこの分野でどのように有効かについても詳細な説明がなされ、特にMulti-Party Computation(MPC)署名の利点が技術的な観点から強調されました。
第二部では、ICPを活用したVCsのデモンストレーションが行われ、オープンチャットアプリでの人間認証の実例が示されました。さらに、国連開発計画やイタリアの非営利連盟など、ICPを用いたVCsの実際のユースケースが具体的に紹介され、その実用性と将来性が議論されました。
会場とのディスカッションでは、生体認証とデジタルIDの統合や、VCsの将来的な応用可能性について活発な意見交換が行われ、参加者からの質問に基づいて技術的な詳細や実装上の課題が明らかにされました。このイベントを通じて、デジタルアイデンティティ技術の最前線と、それがもたらす新たなビジネス機会の具体的な姿が浮き彫りになりました。
各トピックス
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1. 第一部の内容のポイント
a) VCsやデジタルアイデンティティ認証の可能性
- VCsの技術的定義と特徴
- 電子署名技術を用いた検証可能な電子証明書
- 改ざん防止と選択的開示機能を備える
- デジタルIDウォレットの概念と機能
- 運転免許証、パスポート、学歴証明などの重要書類をデジタル管理
- プライバシーを保護しつつ、必要な情報のみを開示可能
Verifiable Credentials (VCs)は、電子署名技術を用いた検証可能な電子証明書として注目を集めています。この技術は改ざん防止機能を持ち、必要な情報のみを選択的に開示することが可能です。これを基盤として、デジタルIDウォレットの概念が発展しています。このウォレットは、運転免許証やパスポート、学歴証明書などの重要書類をデジタルで管理し、ユーザーのプライバシーを保護しつつ必要な情報のみを開示できる革新的なツールとなっています。
b) グローバル動向や日本での進捗やチャンス
- EUのデジタルIDウォレット法案
- 2026年までに全住民へのデジタルIDウォレット提供を義務付け
- 国境を越えた身分証明や行政サービスの利用が可能に
- 日本の取り組み
- マイナンバーカードの国際標準フォーマット(ISO 23220)への準拠
- 2025年(予定)のAppleウォレット対応によるデジタル化の加速
- ビジネスチャンス
- インバウンド観光客向けサービスの開発可能性
- 国際的な身分証明システムを活用した新規事業の創出
デジタルアイデンティティの分野では、EUが先駆的な取り組みを見せています。2026年までに全住民へのデジタルIDウォレット提供を義務付ける法案を可決し、国境を越えた身分証明や行政サービスの利用を可能にする計画です。日本もこの流れに遅れを取らず、マイナンバーカードを国際標準フォーマット(ISO 23220)に準拠させる取り組みを進めています。2025年(予定)にはAppleウォレットへの対応も予定されており、デジタル化の加速が期待されます。これらの動きは、インバウンド観光客向けサービスの開発や、国際的な身分証明システムを活用した新規事業創出など、多くのビジネスチャンスを生み出す可能性を秘めています。
c) ICP(Internet Computer)がこの領域でどのように有効なのかについて
- MPC署名機能の詳細
- 物理的な秘密鍵を持たない新しい署名方式
- 複数の参加者で秘密鍵の断片を分散管理
- 従来のブロックチェーンとの違い
- より汎用的な署名機能の提供
- ブロックチェーン外のデータに対しても署名可能
- ICPの技術的優位性
- スケーラビリティと処理速度の向上
- 低コストでの大規模デプロイメント可能性
Internet Computer Protocol (ICP)は、その革新的なMPC署名機能により、デジタルアイデンティティ分野で大きな可能性を示しています。この技術は、物理的な秘密鍵を持たない新しい署名方式を採用し、複数の参加者で秘密鍵の断片を分散管理することで、セキュリティを大幅に向上させています。従来のブロックチェーンと比較して、ICPはより汎用的な署名機能を提供し、ブロックチェーン外のデータに対しても署名が可能です。さらに、スケーラビリティと処理速度の向上、低コストでの大規模デプロイメント可能性など、技術的優位性も注目されています。
d) ビジネス戦略をどう考えうるか
- タイミングの重要性
- EUの法案施行(2026年)に合わせた準備の必要性
- 先行者利益の獲得機会
- 具体的なユースケース検討
- 金融サービスにおけるKYC/AMLプロセスの効率化
- 医療情報の安全な共有と管理
- スマートシティでの市民サービス統合
- 技術導入のアプローチ
- 自社の強みを活かしたビジネスモデル構築の重要性
- 技術パートナーとの連携による効率的な実装
デジタルアイデンティティ技術の導入においては、タイミングが非常に重要です。特にEUの法案施行(2026年)に合わせた準備を進めることで、先行者利益を獲得できる可能性があります。具体的なユースケースとしては、金融サービスにおけるKYC/AMLプロセスの効率化、医療情報の安全な共有と管理、スマートシティでの市民サービス統合などが考えられます。技術導入にあたっては、自社の強みを活かしたビジネスモデルの構築が重要であり、必要に応じて技術パートナーとの連携を通じて効率的な実装を目指すべきです。
2. 第二部の内容のポイント
a) ICPでのVCsを活用したデモ
- オープンチャットアプリでの人間認証プロセス
ユーザーがカメラを通じて顔を撮影
AIによる人間判定
VCの発行と検証
- デモの技術的背景
- ICPのインターネットアイデンティティ機能の活用
- ウォレットレスでのVC管理の実現
ICPを活用したVCsのデモンストレーションでは、オープンチャットアプリでの人間認証プロセスが紹介されました。このプロセスでは、ユーザーがカメラを通じて顔を撮影し、AIによる人間判定を経て、VCの発行と検証が行われます。このデモの背景には、ICPのインターネットアイデンティティ機能が活用されており、特筆すべき点としてウォレットレスでのVC管理が実現されています。これにより、ユーザーは複雑な操作を必要とせず、直感的にデジタルアイデンティティを利用することが可能になります。デモを通じて、ICPの技術が実際のアプリケーションでいかにシームレスに機能するかが明確に示されました。
b) ICPでのVCsユースケース事例
- 国連開発計画(UNDP)のユニバーサルトラステッドクレデンシャル
- 対象:中小企業
- 目的:資金調達アクセスの改善
- 展開:カンボジアを皮切りに10カ国へ拡大予定
- イタリアの非営利連盟による"Made in Italy"証明書
- 製品の真正性を保証するQRコード付きVC発行
- すでに稼働中のシステム
- VRC(Voluntary Recycling Credit)プロジェクト
- 目的:廃棄物削減とリサイクル促進
- 特徴:カーボンクレジットのリサイクル版
- 展開:アラブ諸国とブラジルを中心に開始
- インドのマニプール州の教育証明書登録システム
- 学歴証明のデジタル化と検証の効率化
- 州全体での導入計画
ICPを用いたVCsの実際のユースケースとして、いくつかの興味深い事例が紹介されました。まず、国連開発計画(UNDP)のユニバーサルトラステッドクレデンシャルプロジェクトがあります。このプロジェクトは中小企業の資金調達アクセスを改善することを目的とし、カンボジアを皮切りに10カ国への拡大を予定しています。次に、イタリアの非営利連盟による"Made in Italy"証明書の発行があります。これは製品の真正性を保証するQRコード付きVCを発行するシステムで、すでに稼働中です。
さらに、VRC(Voluntary Recycling Credit)プロジェクトは、廃棄物削減とリサイクル促進を目的としたカーボンクレジットのリサイクル版として注目されており、アラブ諸国とブラジルを中心に展開が始まっています。最後に、インドのマニプール州で進められている教育証明書登録システムは、学歴証明のデジタル化と検証の効率化を目指し、州全体での導入が計画されています。
これらの事例は、ICPとVCsの技術が多様な分野で実用化されつつあることを示しています。特に、国際機関や政府機関が関与するプロジェクトが含まれていることは、この技術の信頼性と将来性を裏付けるものと言えるでしょう。各ユースケースは、それぞれの分野で特有の課題を解決し、より効率的で信頼性の高いシステムの構築を目指しています。これらの先進的な取り組みは、他の組織や企業にとっても参考となる重要な事例であり、今後のデジタルアイデンティティ技術の普及と発展に大きく寄与することが期待されます。
3. 会場とのディスカッション
a) 生体認証とデジタルIDの統合
- ハイブリッド認証システムの提案
- 初回:マイナンバーカード等の公的IDで認証
- 2回目以降:生体認証やパスキーを使用
- 利点:
- 高セキュリティと利便性の両立
- クロスプラットフォーム対応の可能性
- 課題:
- 異なる認証方式間でのシームレスな連携
- プライバシー保護と利便性のバランス
b) VCsの将来的な応用可能性
- サプライチェーン管理におけるVCs活用
- 部品製造から最終製品までのトレーサビリティ確保
- 軽量な署名付きデジタルデータの活用提案
- IoTデバイスとの連携
- 車両の走行ルート記録への応用例
- リアルタイムデータへの信頼性付与
- 金融分野での新たな活用方法
- 未決済の領収書のトークン化
- トークンを担保とした融資システムの可能性
c) ブロックチェーン技術の再考
- 従来のブロックチェーン利用の問題点
- データ保存にNFTを使用することの非効率性
- 高コストと処理速度の課題
- 新たなアプローチの提案
- 軽量な署名技術の活用
- 必要最小限のデータのみをブロックチェーンに記録
- 将来の方向性
- 分散型台帳技術とVCsの融合
- セキュリティと効率性を両立した新世代のシステム設計
まとめ
本イベントを通じて、デジタルアイデンティティとVCsの技術が急速に進化し、ビジネスや社会に大きな変革をもたらす可能性が具体的に示されました。EUのデジタルIDウォレット法案や日本のマイナンバーカードの国際標準化など、政策面での進展が見られる中、企業は自社の強みを活かしたビジネスモデルの構築を急ぐ必要があります。
ICPは、その柔軟性と安全性により、VCs実装の有力なプラットフォームとなる可能性を秘めています。特にMPC署名機能は、従来のブロックチェーン技術の限界を超え、より広範な応用を可能にします。デモンストレーションや実際のユースケースを通じて、ICPの実用性と将来性が明確に示されました。
今後は、公的IDと生体認証の統合、IoTデバイスとの連携、サプライチェーン管理の効率化など、多様な分野でVCsとICPの活用が期待されます。同時に、プライバシー保護や技術の標準化など、解決すべき課題も明らかになりました。
企業はこれらの技術動向を注視し、新たなビジネス機会の創出に向けて積極的に取り組むことが重要です。特に、EUの法案施行に合わせたタイミングでの市場参入や、自社の強みを活かした独自のユースケース開発が、競争優位性を確保する鍵となるでしょう。デジタルアイデンティティ革命は、単なる技術の進化にとどまらず、社会のあり方そのものを変える可能性を秘めています。この変革の波に乗り遅れることなく、積極的な取り組みが求められています。
動画レポート
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なお、10/11(金)は以下をオンラインにて予定しております。
ぜひ、ご参加をお待ちしております。
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